「シン・犬神家の一族」を観た気がする。最高の体験

吉岡秀隆版の「犬神家の一族」を観た。彼の金田一は、庶民派で自分の好奇心に任せてどんどんと事件現場に介入していく。どんなに周囲に煙たがられようが気にしない。というか好奇心に夢中で気が付かない。

石坂浩二版は市川崑監督から「天使」だと言われていたが、吉岡版はまさに妖精。愛憎から生まれる悲しい事件の謎を解くたびに、「人間の儚さ」を知り、なんとも言えない気持ちで頭を掻きむしる。その姿はまさに、人間という生物を俯瞰して観察している探偵の妖精だ。

事件を解決しても、彼に達成感など無い。関係者からの感謝の声や名声も響かない。ただ彼にあるのは、死んだ人間を救えなかった後悔だ。そんな庶民的な人柄がある一方で、自分の中に生まれた疑問を解明する為なら周囲の目なんか気にしない、尋常ではない探究心も合わせ持つ。それが吉岡版の金田一

だから犯人の手口が分かり、世間的に事件が解決したとしても、何か一つでも腑に落ちない「謎」が残れば金田一はどこまでも解明せずにはいられない。その「謎」が彼の中で解き明かされない限り、金田一にとっては未解決事件、どこまでも無力を痛感することになる。根っからの探偵なのだ。

今回の「犬神家の一族」の脚本には、既に結末を知るファンも唸らせる様な驚きの新解釈が施されている。登場人物の心理描写も丁寧に描き、視聴者に様々な解釈を起こさせる巧みな脚本・演出にも圧巻。何回も観た作品のリメイクの筈なのに、終始どうなるのか目が離せなかった。